「インドネシアやバングラデシュのエンジニアは優秀だと聞くが、イスラム教の文化に対応できるか不安だ」 「仕事中に『お祈り』で席を外されると困るのではないか?」
IT人材不足が深刻化する中、親日で若年人口が多いイスラム圏(特にインドネシア)のエンジニア採用に注目が集まっています。 しかし、多くの日本企業が「宗教的な配慮」をハードルに感じて、採用を躊躇しているのが現状です。
イスラム教徒(ムスリム)への配慮は、基本的なポイントを理解すれば十分対応可能です。専用の設備工事も、業務ルールの抜本的な変更も不要です。重要なのは、宗教文化への理解と事前のルール共有です。
今回は、採用担当者が知っておくべき「ラマダン(断食)」と「礼拝」のリアルな実態と、日本企業ができる現実的な配慮について解説します。
1. そもそも「ラマダン(断食)」とは?仕事への影響は?

ラマダンとは、イスラム暦の第9月に行われる、約1ヶ月間の断食期間のことです(時期は毎年10日ほどズレます)。 この期間中、ムスリムは「日の出から日没まで」一切の飲食を断ちます。水さえ飲みません。
業務への影響と対策
「水も飲まないで、仕事に集中できるの?」と心配になりますが、多くのムスリムは子供の頃から慣れているため、普段通り業務をこなします。 ただし、以下の点は配慮が必要です。
- ランチミーティングは避ける: 彼らは食事ができません。昼休憩の時間にミーティングを入れるのは避けましょう。
- 午後〜夕方の集中力低下: 空腹と脱水で、夕方近くになるとどうしても集中力が落ちることがあります。重要な会議は午前中に入れるなどの工夫が有効です。
- 勤務時間の調整(フレックス): 「昼休憩(1時間)を取らなくていいので、その分1時間早く帰宅したい」という要望が出ることがあります。これを認めてあげると、日没後の食事(イフタール)を家族とゆっくり摂れるため、非常に喜ばれます。
ポイント: 「大変だね、何か食べたら?」と言うのは逆効果です。彼らにとって断食は神聖な義務であり、精神修養の喜びでもあります。「無理しないでね」と体調を気遣う程度に留めましょう。
2. 仕事中の「お祈り」はどうすればいい?

ムスリムには1日5回の礼拝義務があります。しかし、勤務時間中に被るのは通常「ズフル(正午過ぎ)」と「アスル(午後)」の2回程度です。
時間と場所のリアル
- 所要時間: 1回あたり10〜15分程度です。短時間で行われるケースが一般的です。
- 場所: 「専用の礼拝室(モスク)」を作る必要はありません。 「空いている会議室」や「人目につかないオフィスの隅」、あるいは「パーティションで区切ったスペース」があれば十分です。お祈り用のマット(1畳分程度)が敷ければどこでも構いません。
企業ができる配慮
- 事前に利用ルールを共有しておく: 入社時に「この会議室を使っていいよ」「カレンダーに『祈り』と入れておけば席を外してOKだよ」とルール化しておきます。
- 足や手を洗う場所: 礼拝前に手足を清める(ウドゥ)習慣があります。給湯室や洗面所を使いますが、床が水で濡れることがあるので、「使い終わったらペーパーで拭いてね」と最初に伝えておけばトラブルになりません。
3. 「飲み会」と「食事」の付き合い方

日本の職場に欠かせない「飲み会(Nomikai)」ですが、ムスリムも参加していいのでしょうか?
お酒と豚肉はNGだが、同席はOK
多くのムスリムエンジニアは、日本の飲み会の雰囲気を楽しみたいと思っています。 彼らは「自分がお酒を飲まなければOK(ソフトドリンクで参加)」「豚肉を食べなければOK」というスタンスの人が多いです。
- お店選び: 焼き鳥屋(豚バラ以外)や、魚料理メインの店なら安心です。トンカツ屋やラーメン屋(豚骨スープ)は避けましょう。
- 強要しない: 「一杯くらいどう?」は禁句です。また、料理に含まれる成分(みりんや豚エキス)を気にする厳格な人もいるので、成分表示を確認できるようにするか、ハラール対応の店を選ぶとベストです。
まとめ:配慮は「特別扱い」ではなく「合理的配慮」
イスラム教徒への対応と聞くと身構えてしまいますが、実際に行うことは「フレックスを認める」「会議室を貸す」「飲み会で無理強いしない」といった、ごく当たり前の配慮ばかりです。
これは「外国人への特別扱い」ではなく、育児中の社員に時短を認めたり、腰痛の社員に良い椅子を用意したりするのと同じ「合理的配慮」です。
宗教文化への理解や配慮を明確に示すことは、外国人材にとって安心して働ける企業かどうかを判断する重要なポイントになります。宗教というアイデンティティを尊重してくれる会社に対し、安心して働ける環境は、定着率向上にもつながります。






