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IT現場での「英語公用語化」失敗事例に学ぶ。日本企業が取るべき現実的な言語戦略

言語

「楽天やユニクロのように、社内の公用語を英語にするべきか?」 外国人エンジニアの採用を検討する経営者やCTOから、このような相談を受けることが増えました。

グローバル化を目指す姿勢は素晴らしいですが、結論から申し上げますと、一般的な日本企業が十分な準備なしに「英語公用語化」に踏み切ると、現場の生産性低下やコミュニケーションの混乱につながる可能性があります。 実際に、トップダウンで英語化を強行した結果、日本人エンジニアが次々と退職し、開発がストップしてしまった現場で課題が生じたという声も少なくありません。

今回は、IT現場で頻発する「英語公用語化の失敗パターン」を分析し、無理なく多国籍チームを機能させるための、より現実的でコストパフォーマンスの高い言語戦略(第三の道)を提案します。

1. 悲劇はなぜ起きる?典型的な「失敗事例」3選

英語公用語化が失敗する時、現場では何が起きているのでしょうか。よくある3つのパターンを紹介します。

事例①:会議が「お通夜」状態になり、決定の質が低下

ある受託開発企業では、会議をすべて英語で行うルールにしました。 その結果、技術力はあるが英語が苦手な日本人ベテランエンジニアが発言しなくなりました。逆に、英語が得意なメンバーの発言が中心になり、外国人メンバーの発言ばかりが採用されるようになり、結果として「技術的に間違った意思決定」がまかり通るようになってしまいました。

事例②:生産性が激減し、翻訳工数がコードを書く時間を圧迫

「仕様書もチャットも全て英語」にした結果、日本人メンバーが英文作成に膨大な時間を費やすようになりました。 「コードを書いている時間より、翻訳ツールにかけている時間の方が長い」という本末転倒な状況に陥り、開発スピードが半分以下に低下。納期遅延が常態化しました。

事例③:社内に「英語派」と「日本語派」の分断が発生

英語ができる層とできない層の間で、心理的な壁が生まれました。 「英語ができない奴は評価されない」という空気が蔓延し、優秀な日本人エンジニアから順に離職。残ったのは英語力を重視したメンバー構成となり、本来の技術力バランスが崩れてしまうケースもあります。日本語も英語も中途半端な外国人メンバーだけ、という悲惨な結末を迎えました。

2. なぜ失敗するのか?「目的」と「手段」の逆転

失敗する企業の共通点は、「英語を話すこと」が目的化してしまっている点です。 本来の目的は「優秀な外国人材の力を借りて、良いプロダクトを作ること」はずです。

ITエンジニアの場合、コード(プログラミング言語)という世界共通言語があります。また、ドキュメントやチケット管理(Jiraなど)は英語で行うのが効率的ですが、口頭のコミュニケーションまでネイティブレベルの英語を強要する必要はありません。

3. 日本企業が取るべき「現実解」:ツールと「やさしい日本語」

 

では、英語公用語化せずに、どうやって外国人エンジニアと協働すればよいのでしょうか。 2026年の現在、テクノロジーと工夫で解決する「ハイブリッド戦略」が最も成功率の高い方法です。

戦略①:会話は日本語、読み書きは英語(Read/Write English)

最も現実的なラインです。

  • ドキュメント・チャット・コード: 英語(または翻訳ツール使用)
  • 口頭コミュニケーション: 日本語(またはブロークンな英語)

多くのエンジニアは、英語のドキュメントを読むことには抵抗がありません。口頭での議論は日本語で行い、決定事項や仕様は英語で残す。これなら、日本人の生産性を落とさずに外国人に情報を共有できます。

戦略②:AI翻訳ツールの徹底活用

DeepLやChatGPT、Slackの自動翻訳ボットなどを社内インフラとして整備します。 「英語を勉強しろ」と社員に強いるよりも、「翻訳ツールを使いこなせ」と教育する方が、圧倒的に低コストで即効性があります。 最近のツールは精度が高く、技術用語も正確に訳してくれます。チャットベースであれば、ほぼリアルタイムで異言語間の会話が成立します。

戦略③:日本人社員への「やさしい日本語」教育

これが最も重要なポイントです。 外国人社員に日本語を完璧に覚えさせるのではなく、日本人社員が「外国人にも分かりやすい日本語(やさしい日本語)」を話すように歩み寄るのです。

区分例文
× 普通の日本語「例の件、なる早でよしなにやっといて」
○ やさしい日本語「Aのプロジェクトについてです。明日までに、テストを終わらせてください」

曖昧な表現を避け、短く、論理的に話す。これは英語力に関係なく、誰でもトレーニングすればできます。 実は、「やさしい日本語」はAI翻訳にかける際も翻訳精度が高くなるため、一石二鳥の効果があります。

まとめ:目指すべきは「英語ができる組織」ではなく「伝わる組織」

「全社英語公用語化」は、楽天など一部の企業では英語公用語化を成功させていますが、導入には強い経営コミットメントと長期的な組織改革が必要とされています。 一般的な日本企業が目指すべきは、英語ペラペラの組織ではなく、「ツールと歩み寄りによって、国籍問わず情報が伝わる組織」です。

  • AI翻訳を使い倒す。
  • ドキュメントを英語で残す文化を作る。
  • 日本人が「分かりやすい日本語」を話す。

これだけで、現場の混乱を最小限に抑えつつ、外国人エンジニアのパフォーマンスを十分に引き出すことができます。英語公用語化という大きな制度変更を行わなくても、ツール活用とコミュニケーション設計によって多国籍チームを機能させることは十分可能です。まずは今のメンバーでできる「伝え方の工夫」から始めてみましょう。

この記事の著者
海外人材採用・定着支援HRアドバイザーKN

海外人材採用・定着支援HRアドバイザー

KN

私は海外人材領域において、採用成功だけでなく入社後の「定着・戦力化」までをゴールに支援するHRアドバイザーです。特定技能・技人国などの制度理解に加え、現場の受け入れ体制やコミュニケーション環境といった実務課題も踏まえ、企業ごとに最適な提案を行ってきました。これからも採用計画の設計から入社前後フォローまで一貫して伴走し、ミスマッチを防ぎ継続採用と組織力強化に貢献していきます。