※外国人雇用特有の「停止条件」条項のドラフト作成や、多言語での労働条件通知書の整備に関するご相談も承っております。
「日本人社員と同じ雇用契約書を使っても問題ないでしょうか?」 これから初めて外国人エンジニアを採用する企業から、よくこのような質問をいただきます。結論から申し上げますと、日本人用の契約書をそのまま流用するのは非常に危険です。
なぜなら、外国人雇用には「在留資格(ビザ)」という絶対的な条件が存在するため、万が一ビザが許可されなかった場合や、更新できなかった場合のリスク管理を契約書に盛り込んでおく必要があるからです。 また、言葉の壁による「言った・言わない」のトラブルを防ぐためにも、特有の配慮が求められます。
今回は、外国人エンジニアとの契約で必ず押さえておくべき3つの重要な違いと、法的リスクを回避するための契約書の書き方を解説します。
日本人用契約書との決定的な違い①:「停止条件」と「解除条件」の明記

外国人雇用において最も恐ろしいのは、「採用内定を出して雇用契約を結んだのに、ビザが下りなかった」というケースです。 もし契約書に何の特約もなければ、ビザが不許可で働けない状態であっても、会社は雇用義務(=休業手当の支払い義務など)を負うリスクが発生しかねません。
これを防ぐために、以下の2つの条文(特約)を必ず盛り込みます。
1. 停止条件付雇用契約(入社前)
「本契約は、日本国政府による在留資格の許可を条件として効力を生じるものとする」
つまり、ビザが許可されなければ、契約自体が最初からなかったことになります。これにより、不許可時の内定取り消しリスクを回避できます。
※入社日は在留資格取得後、別途協議して決定するものとする、といった補足も有効です。
2. 解除条件(入社後)
「在留資格の更新が不許可となった場合、または在留資格が取り消された場合、本契約は終了するものとする」 入社後に何らかの理由でビザの更新ができなくなった場合、適法に退職としてもらうための条項です。これが不明確だと、不当解雇トラブルに発展する可能性があります。
日本人用契約書との決定的な違い②:業務内容は「詳細」かつ「限定的」に

日本人社員の契約書では、業務内容を「会社の命ずる業務」と包括的に記載することが一般的です。しかし、外国人エンジニアのビザ申請において、この書き方は「単純労働」を疑われる原因になり、審査が長期化・不許可になる可能性があります。
| 区分 | 契約書への記載内容 |
|---|---|
| 悪い例 | 「総合職」「会社の指示する業務全般」 |
| 良い例 | コンピュータシステムの設計・開発、プログラミング、およびこれらに付帯する高度な技術的業務(※単純労働を含まない) |
日本人用契約書との決定的な違い③:言語(翻訳)と理解の確認

日本語のみの契約書にサインをさせた場合、トラブル時に「内容は理解していなかった(錯誤無効)」と主張されるリスクがあります。これを防ぐためには、以下の対応が必須です。
- 母国語または英語を併記する:日本語の原文の下に、英語や母国語訳を併記します。
- 優先言語を規定する:翻訳の齟齬に備え、「本契約書の解釈については、日本語を正文とする」旨を記載します。
- 理解の自筆確認:署名欄付近に「私は本契約の内容を十分に理解し、合意しました」という旨を、本人の自筆(母国語)で記載させることが効果的です。
厚生労働省の「モデル労働条件通知書」を活用しよう

一から契約書を作るのが難しい場合は、厚生労働省が公開している多言語対応の「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」を活用するのが確実です。これに「停止条件」などの自社特有の特約を追記してカスタマイズしましょう。
まとめ:契約書は「お互いを守る」ための最初のツール
外国人エンジニアとのトラブルの多くは、悪意ではなく「認識のズレ」から生じます。 「ビザが下りなかったらどうなるのか」といった不安を契約書の段階でクリアにしておくことは、会社のリスク管理であると同時に、エンジニア本人への誠意でもあります。
雛形をうまく活用しつつ、自社の状況に合わせた適切な契約書を準備しましょう。契約実務やビザ要件との整合性チェックが必要な場合は、お気軽にプロまでご相談ください。





