「妻と子供を日本に呼びたい。手伝ってもらえませんか?」 優秀な外国人エンジニアを採用して1年ほど経つと、必ずと言っていいほどこの相談を受けます。
単身赴任での生活は、精神的に不安定になりがちです。逆に言えば、家族を日本に呼び寄せ、一緒に暮らせる環境を整えることは、他社への転職を防ぐ「効果的な定着支援の一つ」となります。
しかし、家族なら誰でも呼べるわけではなく、年収要件などの審査もあります。 今回は、人事担当者が知っておくべき「家族滞在ビザ」の基本条件と、企業としてどこまでサポートすべきかのライン引きについて解説します。

1. 誰を呼べる?「家族」の定義に注意

「家族滞在(Dependent)」ビザで呼べる範囲は、法律で厳格に決まっています。
- ○ 呼べる人: 配偶者(夫・妻)、子(実子・養子)
- × 呼べない人: 親(父・母)、兄弟姉妹、内縁の妻・夫
落とし穴①:親は原則呼べない
多くの外国人社員(特に親を大切にする文化圏の人)が誤解していますが、エンジニア本人の両親を「家族滞在」ビザで呼び寄せることは原則できません。 病気などの人道的な理由がない限り、親の長期滞在は認められず、観光ビザ(短期滞在90日)での一時的な訪問しかできません。 (※例外として、「高度専門職ビザ」で、かつ「7歳未満の子の養育」などの条件を満たせば、親の帯同が許される場合があります。これが高度専門職の大きなメリットです)
落とし穴②:事実婚はNG
日本は法律婚主義です。母国で事実婚(Common-law marriage)として認められていても、日本の入管法では法的な婚姻証明書がなければ配偶者として認められません。
2. 年収はいくら必要?「扶養能力」の審査基準

家族を呼ぶためには、エンジニア本人に「家族を養う経済力」があることを証明しなければなりません。 明確な法定基準はありませんが、実務上の目安は以下の通りです。
- 月収: 20万円以上(手取りでなく額面)
- 年収: 300万円以上
エンジニアとして採用している場合、この基準はクリアしていることが多いですが、扶養人数が増える(妻+子供3人など)場合は、より高い収入が求められます。 また、「税金や年金の滞納がないこと」が絶対条件です。住民税の未納があると、即座に不許可になります。
3. 企業は何をサポートすればいい?

家族滞在ビザの申請人(スポンサー)は、あくまで「エンジニア本人」です。会社が申請人になるわけではありません。 しかし、スムーズな許可のために企業ができるサポートは3段階あります。
レベル1:必須書類の提供(事務的サポート)
申請には、本人の経済力を証明する書類が必要です。これらを速やかに発行してあげましょう。
- 在職証明書
- 直近の給与明細書(住民税の課税証明書がまだ出ない入社1年目の場合)
- 源泉徴収票
レベル2:行政書士費用の負担(金銭的サポート)
ビザ申請の手続きを行政書士に依頼する場合、1名あたり5〜10万円ほどの費用がかかります。 これを「福利厚生」として会社が負担してあげると、本人の満足度は劇的に上がります。「家族を大切にしてくれる会社だ」という評判は、エンジニアコミュニティ内での採用ブランディングにも繋がります。
レベル3:生活セットアップ(生活支援)
家族が来日した後、エンジニア本人が仕事を休んで手続きに行かなくても済むよう、人事やメンターがサポートします。
- 区役所での転入届、国民健康保険への加入手続き
- 子供の学校・保育園探し
- 家族用の広いアパートへの引っ越し支援
4. 家族の「アルバイト」は可能?

奥様(または旦那様)が日本に来た後、「暇だから働きたい」と言うケースも多いです。 家族滞在ビザは本来「働くためのビザ」ではありませんが、「資格外活動許可」を取得すれば、週28時間以内のパート・アルバイトが可能です。
これにより世帯収入が増えれば、生活はより安定し、日本での永住を視野に入れた長期就労へと繋がります。 企業側で「配偶者向けのパート求人(近所のスーパーやコンビニなど)」の情報を提供してあげるのも、喜ばれるサポートの一つです。
まとめ:家族の安定は、本人のパフォーマンス向上に直結する
「家族を呼びたい」という相談は、そのエンジニアが「日本で長く働きたい」と考えている証拠です。 ここで会社が「それは個人の問題だから」と突き放さず、「一緒に手続きを進めよう」と寄り添うことで、彼らのロイヤリティは揺るぎないものになります。
- 親は呼べないが、妻と子は呼べる。
- 扶養人数や居住状況、納税状況などを総合的に審査される。
- 会社が費用負担すれば、最高の福利厚生になる。





